哈囉〜(Hā luó=台湾人がよく使うフランクな挨拶言葉。英語のHelloの意)春風です。
在台湾日本大使館に相当する日本台湾交流協会のホームページに
『台湾における対日世論調査』の結果が掲載されています。
台湾における対日意識の変化を把握することを目的に
台湾人の様々な年代を対象に対日感情を3年に1度調査するもので
体系的な統計として日本がどう捉えられているかが分かる資料です。
228事件をまとめた別の記事と多少関連がありますが
本記事では最新の調査結果を参照したうえで
各年代別に回答の背景を探っていきたいと思います。
最新版2022年の調査結果
日本台湾交流協会のプレスリリースに
前回2019年の調査結果と比べ、日本に対する好感度や信頼度
現在及び今後の日台関係に対する肯定的な評価等はいずれも上昇しています。
とある通り、日台両国の国民が互いに親しみを感じつつ
互いに信頼でき関係は良好であるとした回答が多いのは
別の記事でもまとめた通りです。
詳細を見ると「日本に親しみを感じますか?」という問いに対し
「親しみを感じる」あるいは「どちらかというと親しみを感じる」と
全体で77%の人が回答しています。
注目すべきは、この質問で
20代の90%、30代の89%が好意的な回答をしているのに対し
50代以上では10%~14%の人が「親しみを感じない」または
「どちらかというと親しみを感じない」と回答しています。
同様に「日本は信頼できる国と考えますか?」という問いに対しても
若年層では70%以上が日本を「信頼できる」と好意的な回答をした一方で
50代以上の中年層~高齢者層では「信頼できない」との回答が14%います。
つまり、日本のテレビで「台湾は親日」と喧伝する番組がありますが
少数ですが「日本に親しみを感じない、信頼できない」と考える台湾人が一定数いて
それは若年層より50代以上に多い傾向にあるということが分かります。
続いて、こうした回答の背景を年齢の高い方から順に分析してみます。
50代~70代
戦後国民党政府による独裁政権下で教育を受けた世代です。
国民党政府は長年日中戦争を戦った敵国日本を目の敵にして
教育において台湾人子息に対し徹底的に反日教育を施しました。
また、戦前日本統治時代に日本語を習得した台湾人に対し
国民党政府は敵性言語として日本語の使用を禁止したうえで
公共の場において台湾語(=台湾土着の方言)の使用も禁止し
公用語として中国語(=北京語)を教授しました。
当時はまだ日本による統治や教育の影響が色濃く残る時代で
家では日本の教育を受けた父母の日本統治時代を懐かしむ声を聞き
学校では日本軍が犯したとされる数々の蛮行を教師に喧伝され
その矛盾を自身で咀嚼しつつ、次第に反日に傾倒した人もいます。
特に国民党政府の官吏・軍人の子息として生まれた外省人
(=戦後国民党政府と共に中国大陸から台湾に逃れてきた人々)の
家庭環境にあった人は、日本軍の蛮行を祖父母や父母からも聞かされ
日本に対し並々ならぬ嫌悪感を持つ人も一部にいるようです。
一方で、戦後の荒廃から短期間で経済大国に上り詰めた日本に対し
畏敬の念が少なからずあるのかもしれません。
高品質・高付加価値の日本製品を評価する人が多いのも事実です。
40代
公的な教育において相変わらず中国の歴史と反日が教えられ
戦前日本が犯した侵略行為を授業で教わり、日本の印象は悪いものの
1990年代に台湾が民主化すると、テレビを通して次第に日本の文化が流入し
ドラマ・アニメなどの魅力に魅せられた世代です。
↑無敵鐵金剛(Wúdí tiě jīngāng=マジンガーZ)
熱狂的な日本フリークを表す「哈日族(Hārì zú)」という言葉が誕生し
日本のトレンディドラマやアイドルをテレビで追っかける人達が出現。
当時台湾人女性への褒め言葉として
「日本人みたいだ」「日本の女の子みたいにカワイイ」
という言葉が生まれたほど(今は使われません)。
また、ゲームやマンガもこの世代の台湾人の心をガッチリ掴みました。
台湾のスポーツでバスケットボールが盛んなのは
一説にはこのマンガの大ヒットが背景にあるとか。
ちなみに、この世代の人々が当時受けた教育の様子が
自伝的エッセイ「我的青春、我的Formosa」で
非常に具体的且つ視覚的に分かりやすくまとめられています。
20代~30代
インターネットとスマートフォン・タブレットの普及のおかげで
時間や場所を問わず日本のサブカルチャーに接してきた人が多く
特に20代の若者は、物心が付く頃から台湾のテレビで放送される
ドラえもんやアンパンマンを見て育ってきた世代です。
↑2016年筆者撮影
日本のドラマは韓流ドラマに押され気味でも
アニメ・マンガ・ゲームのサブカルチャー人気は健在です。
また、民主化後この世代から学校教育で台湾の歴史や地理を学習する
『認識台灣(Rènshí táiwān=台湾を知ろう)』という教科書が使われ
反日一辺倒だった内容を改め、日本による植民地統治の結果
差別が存在し戦争にも巻き込まれたという負の側面を踏まえた一方で
当時日本が台湾に施した数々の近代化事業を冷静に評価しています。
私の台湾の親戚で30代のチョーメイは
戦前日本が台湾を統治したことについて、中国語でこう言います。
『有好有壊(Yǒu hǎo yǒu huài=良い面も悪い面も両方あった)」
調査対象外の80代以上
私が台湾に住んでいた2012年~2020年の期間
戦前の台湾で日本の教育を受けた台湾人高齢者にお会いする際
折に触れてその当時のことを聞いてきました。
すると、驚くほど流暢、寧ろ私達現代日本人よりも正しく美しい日本語で
日本統治時代のエピソードを懐かしそうに語ってくれます。
日本統治時代、当時日本政府は国家予算の4分の1を使って台湾を近代化し
学校を建てて台湾人に対し近代教育を粘り強く継続し、治安改善に尽力した結果
夜は玄関のカギを閉めずとも安心して眠れる日が続いた。
紀行文で台湾の政治史に触れた名著『街道をゆく 台湾紀行』で
作者の司馬遼太郎は日本による台湾植民統治をこう評しています。
日本時代は、太平洋戦争の敗戦で台湾を放棄するまで五十年つづいた。
私は日本人だからつい日本びいきになるが
余分な富力をもたない当時の日本が
ー植民地を是認するわけではないにせよー
力のかぎりのことをやったのは認めていい。
国内と同様、帝国大学を設け、教育機関を設け
水利工事をおこし、鉄道と郵便の制度を設けた。
戦後、蔣介石・中国国民党とその軍人・官吏が台湾を支配すると
汚職・略奪を繰り返し、強盗・強姦・殺人が多発して治安が急激に悪化。
戦前日本の教育を受けた80歳以上の台湾人日本語世代の中には
「中国国民党が独裁政権をしいた戦後の暗黒時代よりも
日本人による差別はあったが、日本統治時代の方がマシだった」
と、相対的に日本統治時代を評価する人が多いようです。
そんな戦前日本による教育を受けた齢90になる私の親戚の祖父母も
日本統治時代を懐かしみ、自宅のカラオケで日本の演歌や民謡を歌っています。
あとがき
台湾人の対日感情は概ね良好ですが、世代によって多少の差があり
少数ながら反日的な考えを持つ台湾人もいることにも留意しましょう。
しかしながら、日本~台湾間を往復するLCCが増えたことで
安・近・短(安い、近い、旅行期間が短い)で気軽に旅行で往来でき
豊富な観光資源、グルメ、人の親切さを両国民が享受しています。
日本人は台湾の文化や歴史に関してあまり知らない人が多いですが
民間の草の根交流に限らず、政治レベルでもさかんに交流を行うことで
日台両国民の相互理解がより深まり、親密度・信頼度が更に高まれば
これに勝る喜びはありません。
不肖ながら、日本と台湾両国にかかる架け橋のネジ一本になれるよう
引き続き精進して参ります。
では、881〜(Bābāyī、台湾でポケベルが使われていた当時バイバイの意)
コメント